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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)2471号 判決 1982年12月20日

原告

久保商店こと

久保賢市

右訴訟代理人

原田永信

松本昌三

島村和行

被告

兵機海運株式会社

右代表者

千賀恒一

右訴訟代理人

池上治

被告

藤原運輸株式会社

右代表者

藤原康雄

右訴訟代理人

守山孝三

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告は、久保商店の名称で鋼材等の卸売を営むものであり、被告らは、港湾運送、倉庫業等を営む会社であることは原告、被告藤原運輸間では争いがなく、原告、被告兵機海運間では、証人岩谷英義の証言及び原告本人尋問の結果により右事実が認められる(被告兵機海運が港湾運送、倉庫業等を営む会社であることは右当事者間に争いがない)。

二<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1  クムホジャパンは、昭和五三年一二月ころ、韓国から太さ5.5ミリメートルの線材(ワイヤーロッド)を輸入し、チャンピオンナンバーワン号及びチュウスング号という名称の船舶で日本国内に輸送して東西上屋に寄託した。東西上屋は被告兵機海運との間で、同被告は同藤原運輸との間で右線材につき順次寄託契約を締結し、被告藤原運輸は、同兵機海運の依頼により通関手続をなし、同月七日、チャンピオンナンバーワン号で輸送された線材を陸揚して被告藤原運輸の泉北倉庫に保管し、同月一一日、チュウスング号で輸送された線材を陸揚して被告藤原運輸の倉庫に保管した。

2  クムホジャパンは、輸入した線材をツシマスチールに売却し、原告は、ツシマスチールとの間で、同月一二日、原告がチャンピオンナンバーワン号で輸送された本件線材を含む線材二〇〇バンドル(約三五〇トン)を代金一九九五万円で買受ける旨の売買契約を、同月三〇日、原告がチュウスング号で輸送された線材四七一バンドル(約四九九トン)を代金二七四四万五〇〇〇円で買受ける旨の売買契約をそれぞれ締結し、右各契約においては線材は置場渡により引渡を受ける旨の約定がなされた。原告は、同月一二日、ツシマスチールから右二〇〇バンドルの線材を買受けるにあたつて、ツシマスチールの花山社長とともに被告兵機海運大阪支店に赴き同被告大阪支店営業第一課長橋爪秀雄に対しクムホジャパンからツシマスチールに、ツシマスチールから原告に順次売却された右線材について原告が引渡を受ける方法等について説明を求めたところ、橋爪は、原告に対し、国内取引では倉荷証券が発行されることはなく、引渡方法についてはすべて荷渡指図書によつて荷物を出荷する扱いをとつている旨説明し、花山が持参したクムホジャパン発行の東西上屋を被指図人、ツシマスチールを指図受取人とする荷渡指図書及びツシマスチール発行の被告兵機海運を被指図人、原告を指図受取人とする荷渡指図書の呈示を受け、右二通の荷渡指図書のほか、当時すでに東西上屋から被告兵機海運に送付されていた東西上屋発行の被告兵機海運を被指図人、ツシマスチールを指図受取人とする荷渡指図書をも確認のうえ同日、被告兵機海運を指図人、被告藤原運輸を被指図人、原告を指図受取人として同被告が保管するチャンピオンナンバーワン号で輸送された線材二〇〇バンドルについての荷渡指図書(甲第四号証の二はその写し)を発行し、原告にこれを交付した。右荷渡指図書には、被告藤原運輸の泉北倉庫に在庫中の右線材二〇〇バンドルを積来船名、輸入業者名等により特定表示したうえ、「下記貨物本証引換に久保商店(津島スチール(株)分)殿又は持参人にお渡し下さい。」との記載がなされている。原告は、被告兵機海運発行の右荷渡指図書を受領できたので、この線材の引渡を受けられることが確実になつたと考え、ツシマスチールに対し銀行振込の方法により売買代金全額を支払つた。

また、原告がツシマスチールから買受けたチュウスング号で輸送された線材四七一バンドルについても、同月二八日、被告兵機海運から同藤原運輸を被指図人、原告を指図受取人とする荷渡指図書(甲第四号証の三はその写し)が発行され、原告はこれを確認のうえツシマスチールに売買代金を支払つた。

3  原告は、昭和五四年一月九日、被告藤原運輸に対し、被告兵機海運発行の荷渡指図書(甲第四号証の二はその写し)を呈示し、チャンピオンナンバーワン号で輸送された二〇〇バンドルの線材のうち二バンドルの引渡を受けた。被告藤原運輸は、荷渡指図書所持人に対し右指図書に記載された受寄物の一部の引渡をなすときは呈示された荷渡指図書を同被告において預つておく扱いをとつていたので、原告から呈示された右荷渡指図書を預り、残量の確認及び荷渡指図書受領を証するため、線材二〇〇バンドルのうち一月九日に二バンドル出庫し、残一九八バンドルである趣旨が記載された「荷渡指図書(受領証)一通」と題する書面(甲第六号証)を作成して、これを原告に交付した。

4  原告は、同月一六日、ツシマスチールから買受けたチャンピオンナンバーワン号で輸送された二〇〇バンドルの線材を富安に売却したが、同月二五日ころ、被告兵機海運は、東西上屋から右線材の出庫停止の電話連絡を受け、その旨を原告に伝えて引渡を拒絶したので、原告と富安間の売買契約はそのころ解除された。原告は、被告兵機海運に対し、引渡拒絶の理由の説明を求めるとともに再三引渡を請求し、同被告も東西上屋に対し、荷渡指図書が出ている以上出庫は止められない等と言つて交渉した結果、同月末日ころ、東西上屋は被告兵機海運に対し、一〇〇トン位出庫してくれとの指示をなし、同被告は原告に対し、出庫できる旨を伝えたので、原告は、右線材を大専に売却し、大専は、同年二月二〇日までに被告藤原運輸から合計四七バンドルの引渡を受けた。また、原告は、ツシマスチールから買受けたチュウスング号で輸送された線材四七一バンドルを大専に売却し、大専はこれを太陽興業株式会社(以下、太陽興業という。)に売却した。太陽興業は、同月二一日までに被告藤原運輸から四六七バンドルの引渡をうけた。

5  しかるに、ツシマスチールは、原告に線材を売渡した後倒産し、クムホジャパンに対する売買代金の支払ができなくなつたこと等から、クムホジャパンは、同年二月二二日、東西上屋に対しツシマスチールへ売却した線材の出庫停止を指示し、右指図に従つて、同日、東西上屋から被告兵機海運に、同被告から同藤原運輸に順次出庫停止の指図がなされたため、被告らは、原告、大専及び太陽興業に対し、チャンピオンナンバーワン号で輸送された線材の残量一五一バンドル(本件線材)及びチュウスング号で輸送された線材の残量四バンドルの引渡を拒絶した。そして、同年三月一二日、クムホジャパンから東西上屋に、東西上屋から被告兵機海運に、順次右線材残量合計一五五バンドルをクムホジャパンに引渡すようにとの指図がなされたので、被告兵機海運は、同日被告藤原運輸に同旨の指図をし、被告藤原運輸は、この指図に従つて同月一三日クムホジャパンに対し、右線材全量を引渡した。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三<証拠>によれば、本件のような輸入線材の取引においては線材の容積、重量や運搬費用等の関係から売買契約に際して引渡方法は置場渡と約定され、売主から買主に直接目的物が引渡されることはなく、売主から買主に対して、売主から寄託を受けて目的物を保管する倉庫業者等を被指図人とし買主を指図受取人とする荷渡指図書が発行交付され、買主がさらに第三者へ転売する場合は右荷渡指図書を当該第三者に交付し最終的に目的物の引取を欲する買主が保管者に対して右荷渡指図書を呈示して引渡を受ける態様で行われるのが通例となつており、倉荷証券が発行されることはなく、業者中には荷渡指図書の交付を受けることによつて目的物の所有権を取得したとの認識で取引している者もいること、また、被告らは、保管中の荷物の引渡については、荷物についての売買契約の存否や所有権の帰属に関する調査確認等は一切行わず、寄託者発行の荷渡指図書による寄託者の指図のみに従つて行つており買主は、寄託者発行の荷渡指図書がなければ荷物の引渡を受けられないこと寄託者から一旦荷渡指図書によりなされた受寄者に対する指図が撤回された場合においても、倉庫業界では寄託者から荷渡指図が撤回されて出庫差止の指図が行われれば、その指図に従わざるを得ないものと考えられていること、本件のように東西上屋から被告兵機海運に、同被告から同藤原運輸にと順次荷物が寄託された場合は、被告藤原運輸は同兵機海運からの指図がなければ荷物を出庫できず、被告兵機海運は東西上屋からの指図がなければ同藤原運輸に対して出庫の指図ができないとされていたこと、被告藤原運輸は、荷渡指図書に記載された受寄物中の一部の引渡の際には、呈示を受けた荷渡指図書を預り保管する扱いをとつていたが、これは残量確認と寄託者に対する引渡先の証明を容易にする目的で行つているもので、荷渡指図書を持参した買主を荷物の所有権者と認識しているわけではなく、当該買主が以後残量について荷渡指図書なしに引渡を受けられるのは被告藤原運輸において寄託者発行の荷渡指図書による荷渡先が特定したためであるにすぎないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四原告は、被告らに対し、所有権に基づき本件線材の引渡を請求し、原告がツシマスチールより買受けた本件線材につき指図による占有移転によつて引渡を受けた旨主張するので、まずこの点について判断する。

本件線材は、クムホジャパンが韓国から輸入して所有者となつたが、ツシマスチールがクムホジャパンから買受け、次いで原告がツシマスチールから買受けてその所有権を取得したものであり、また、本件線材は、クムホジャパンから東西上屋に、東西上屋から被告兵機海運に、同被告から同藤原運輸にと順次寄託されて同被告の倉庫に保管されていたので、原告は、ツシマスチールよりクムホシャパン発行、東西上屋宛の荷渡先ツシマスチールとする荷渡指図書とツシマスチール発行、被告兵機海運宛の荷渡先原告とする荷渡指図書の交付を受けてこれを被告兵機海運に呈示し、さらに東西上屋発行、同被告宛の荷渡先ツシマスチールとする荷渡指図書の送付をも受けていた被告兵機海運から、同被告発行、同藤原運輸宛の荷渡先原告とする荷渡指図書の交付を受けたこと、被告藤原運輸は、原告から被告兵機海運発行の右荷渡指図書を預り、原告に対し、被告藤原運輸作成の「荷渡指図書(受領証)一通」と題する書面(甲第六号証)を交付したことは前記二のとおりである。

ところで、本件線材について寄託者から受寄者に宛てて荷渡先を指定して受寄物の引渡を委託する荷渡指図書は、商法所定の倉庫証券とはその性質、効力を異にし、当該取引業界において特別の商慣習がない限り、原則として、いわゆる物権的効力を有しないものと解するのが相当であるところ、前記二、三で認定した事実によれば、輸入線材取引において発行される荷渡指図書が一旦受寄物を買受けた第三者に交付された後でも、受寄者は受寄物の引渡をなすまでは寄託者からの右荷渡指図の撤回、出庫差止の指図に従うのを通例としているのであるから、右線材取引業者間においても荷渡指図書の交付や呈示によつて直ちに受寄物の引渡が完成するとの慣習は確立していないものと認められる。したがつて、本件荷渡指図書の交付または受寄者たる被告らに対する呈示によつて直ちに本件線材の占有移転がなされたとみることはできないし、その交付または呈示に被告らに対し、原告のために占有すべき旨を命ずる効力があるということもできない。

そうすると、被告兵機海運が、原告から呈示された荷渡指図書に基づいて原告に対し、被告藤原運輸宛の荷渡指図書を発行したことにより本件線材について指図による占有移転によつて原告に対する引渡がなされたものと認めることはできないし、また、被告藤原運輸が、原告に対し、荷渡指図書受領証を発行したのは単に一部出庫した後の残量確認と荷渡指図書受領を証するため及び寄託者に対する引渡先の証明に資する目的によるものにすぎないことは前記二3及び三で認定したとおりであるから右受領証の発行によつて本件線材につき指図による占有移転によつて原告に対する引渡がなされたものと認めることもできない。

以上の次第で原告は、本件線材につき所有権取得を被告らに対抗し得ないというべきであるから、原告の所有権に基づく引渡請求はその余の主張につき判断するまでもなく理由がない。

五原告は、被告兵機海運が昭和五三年一二月一二日に被告藤原運輸宛の荷渡指図書を発行交付したことによつて原告を本件線材の所有者と認め、原告との間で本件線材につき寄託契約を締結した旨主張するが、前記二、三の認定事実によれば、被告兵機海運の担当者橋爪は、通常の業務処理方法に従つて同被告に対する寄託者たる東西上屋からの荷渡指図書による指図の内容を確認し、その指図による荷渡先ツシマスチールよりの再指図内容に従い、被告藤原運輸宛に荷渡先を原告として受寄物の引渡を委託する荷渡指図書を発行したもので、被告兵機海運が同藤原運輸宛に荷渡指図書を発行してこれを原告に交付したからといつて、あらたに原告との間で原告を寄託者、被告兵機海運を受寄者とする本件線材の寄託契約を締結したものとは到底認めることはできないし、また、<証拠>によれば、倉庫業の一般的約款には倉庫業者が寄託契約を締結するときは、寄託者は受寄者に対し、所定の事項を記載した寄託申込書を提出することが定められており、被告兵機海運もこの定めに従つて業務を行つているところ、原告から右申込書を提出する等の契約締結に必要な手続は何らとられていないことが認められ、右事実によれば、原告と被告兵機海運との間に本件線材につき寄託契約が締結されたものと認めることはできず、他に原告と被告ら間に本件線材についての寄託契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告の右主張は理由がない。

六原告は、本件線材がクムホジャパンからツシマスチールに、ツシマスチールから原告にと順次売却されたことによつて、クムホジャパンの東西上屋ないし被告兵機海運に対する寄託契約上の寄託者たる地位または寄託物引渡請求権もクムホシャパンからツシマスチールに、ツシマスチールから原告にと順次譲渡されたものであり、原告はこれにより被告らに対し本件線材の引渡請求権を有する旨主張するが、本件線材の売買契約と寄託契約はもとより別個独立の性質内容のものであるから、寄託者たる地位の移転ないし寄託物引渡請求権の譲渡については売買とは別個の格別の意思表示を要するところ、荷渡指図書の発行は、被指図人に対して受寄物の引渡権限を授与し、指図受取人に対して受寄物の受領資格を与える書面による指図であつて、いわゆる免責証券としての性質を有するにすぎないものと解されるから、売主より買主に対する売買目的物についての荷渡指図書の発行交付により当然に右意思表示がなされたものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はないのみならず、荷渡指図書の交付または呈示に債権譲渡の通知ないし承認の効力を認めることもできないというべきであるから本件線材につき寄託者たる地位ないし寄託物引渡請求権を取得したとの原告の主張は理由がない。

七原告は、被告兵機海運が、昭和五三年一二月一二日、原告に対し、被告藤原運輸宛の荷渡指図書を発行し、かつ、本件線材を確実に引渡す旨を確認し、指図の引受ないし引渡義務の承認をなし、また、被告藤原運輸が、昭和五四年一月九日、原告に対し、荷渡指図書の受領証を発行し、原告は以後荷渡指図書なしに同被告から本件線材の引渡を受けることができるようになつたものであるから、同被告はこれにより指図の引受ないし引渡義務の承認をなしたものであり、原告は被告らに対し本件線材引渡請求権を取得した旨主張する。しかし、前記二、三で認定した事実によれば、被告兵機海運は、東西上屋から寄託を受けた本件線材をさらに被告藤原運輸に寄託していて、同被告としては被告兵機海運からの荷渡指図がなければ受寄物を出庫することができない立場にあることから、被告兵機海運に対する寄託者よりの指図内容どおりに被告藤原運輸に対して引渡を委託するために同被告宛の荷渡指図書を発行したもので、被告兵機海運が他から寄託された受寄物をさらに他に寄託する場合は従来から右のような方法によつて業務処理を行つているものと認められるから、被告兵機海運が同藤原運輸宛の荷渡指図書を発行してこれを原告に交付したことだけから、原告に対し、指図の引受ないし引渡の承認をなしたものと認めることはできないし、前記二2の認定事実によれば、昭和五三年一二月一二日、原告が被告兵機海運大阪支店に赴いた際、同被告の担当者橋爪は、原告に対し、荷渡指図書で荷物の引渡をしている旨説明したが、これは従来から特にトラブルもなく行つている受寄物の引渡に関する一般的業務処理方法を説明したものにすぎず、特に原告に対し、寄託者との寄託契約関係とは別個独立に本件線材を現実に必ず引渡す旨を確約したものとまでは認められず、他に被告兵機海運が原告に対し指図の引受をなし、あるいは本件線材につき独立に引渡義務を承認したことを窺わせる事実を認めるに足りる証拠はない。また、被告藤原運輸が原告に対し荷渡指図書の受領証を発行した意図、目的は前記二3、三で認定したとおりであり、右受領証の発行交付によつて被告藤原運輸が原告に対し、寄託者との寄託契約関係とは別個独立に本件線材の引渡を確約して指図の引受ないし引渡義務の承認をなしたものとは到底認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがつて、被告らが、原告に対し、指図の引受ないし引渡義務の承認をなしたことにより、本件線材の引渡請求権を取得した旨の原告の主張は理由がない。<以下、省略>

(山本矩夫 朴木俊彦 荒純哉)

物件目録<省略>

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